妊娠と出産を言葉も環境も違うアメリカで経験することは、日本で行うよりもずっと大変なことかもしれません。その一方で、視点を変えると、無痛分娩や快適な分娩室など、必ずしもアメリカでの妊娠・出産はネガティブなことばかりではありません。夫の仕事の関係上、仕方なくアメリカでの出産を予定している方も、積極的にアメリカでの出産を考えている人も、この国での妊娠中の診察・検査の予定、出産がどのように行われているのかを知ることは非常に重要です。スクリプス・クリニックの資料を基にして、以下に妊娠中の診察・検査の予定を説明します。
産婦人科医を選ぶ
妊娠しているかどうか不明な時や産婦人科医の紹介を依頼する時は、先ず内科、家庭医などのプライマリケア医に相談するといいでしょう。サンディエゴには残念ながら日本語の通じる産婦人科医がいないので、英語に自信のない人は英語を話せる人を同伴するか、通訳を世話してくれる医療機関を受診することになりますが、日常会話がある程度できれば、正常分娩の場合はアメリカ人の産婦人科でも問題は無いようです。日本クリニックでも、アメリカ人の産婦人科医にこれまで多くの妊婦の方を紹介してきましたが、特に大きな問題になることはありません。それよりももっと大切なことは、信頼のできる産婦人科医を選ぶということです。出産そのものは、その日の当直医が代わる可能性もあるので、必ずしも自分の選んだ産婦人科医が担当してくれるとは限りません。また、妊娠中は、医師に処方してもらったプリネータル・ビタミンを服用して下さい。
妊娠の徴候
先ず、妊娠を疑うきっかけは予定の生理が来ないということですが、妊娠に関係のある徴候としては乳房の張り、乳房痛、吐き気、嘔吐、瀕尿、疲れなどがあります。妊娠初期の徴候を胃腸炎や風邪だと誤解する人もいますので気を付けてください。
妊娠テスト
妊娠テストは、通常、生理予定日を数日以上過ぎて行うことが多いのですが、市販の妊娠テストを含めて、生理予定日前後にはかなりの確率で妊娠の有無を調べることができます。血液検査による妊娠テストは排卵から約1週間程度で、尿検査による妊娠テストは排卵から約2週間程度で妊娠の有無を調べることができます。妊娠反応が陰性の場合は、数日から1週間後にもう一度検査を行います。
出産予定日の推測
簡単に推測する方法は、最終生理の初日に7日を加えてその月から3カ月を引きます。例えば、最終生理の初日が7月5日とすると (7月5日) + (7日−3カ月) =翌年4月12日が出産予定日になります。
妊娠後最初の診察
通常、最終生理の初日から数えて8週から12週の間に産婦人科医に最初の診察を受けます。未成年者、35歳以上の人、糖尿病・心臓病など健康上のリスクのある人は初回の診察を早く受けた方がいいでしょう。妊娠後の最初の診察では以下のことを行います。
・問診― これは質問表という形で診察前に書き込むことが多いのですが、例えばピルの服用歴、過去の妊娠と出産、流産、人工中絶、死産、過去の妊娠出産時の合併症、新生児の状態と体重、帝王切開歴とその理由などです。他に、内科ないし外科的疾患の既往や、常用薬、アレルギー、家族歴、たばこ、アルコール類の使用、症状があれば、それにに関しても質問されます。予め必要な質問用紙をもらって準備をしておくのがいいでしょう。
・診察― 内科的診察と産婦人科的診察があります。産婦人科的診察では内診の時に子宮頸癌や性病の検査も同時に行います。子宮は妊娠8週で通常の約2倍、10週目で約3倍、12週目で約4倍の大きさになります。妊娠12週で恥骨の上辺に触れ、16週でおへそと恥骨上辺の中間、20週でおへその辺りまで触れます。
・検査― 血球検査、血液型、抗体検査、風疹、梅毒、B型肝炎検査、子宮頚癌検査、尿妊娠検査、尿検査、尿培養、淋菌やクラミジア検査、ツベルクリンなどの検査を行います。妊娠11〜12週を過ぎると、胎児の心鼓動を調べるためにドップラーという検査が行われます。胎児の心鼓動は1分間120〜160回程度です。超音波検査も重要です。妊娠7〜8週を過ぎると胎児の動きや心臓の活動が見られます。
妊娠中の診察回数
妊娠後8〜12週目から28週目までは1カ月毎に、28〜36週の間は2週間毎に、36週以降は毎週産婦人科医を訪れます。
妊娠初期
体重増加、血圧、子宮の大きさ、浮腫あるいは蛋白尿・糖尿の有無は妊娠全般を通じてチェックされます。たばこ、アルコールの使用は禁忌です。頭痛や腰痛にはタイラノールを服用し、モトリン・アドビル (イブプロフェン) のような抗炎症鎮痛薬は避けます。吐き気や嘔吐には、例えば少量を頻回に食べたり、刺激性や油っこい食べ物を避けるなどの食事の工夫をします。就寝前にりんごを食べたり、ミルクを飲んだりするのもいいかもしれません。吐き気には Phenergan/フェナガン (promethazine) 12.5〜50mgを4〜6時間毎に服用します。便秘には Metamucil/メタミューシル (psyllium) を取って水分摂取を増やします。これで効果が無い時は Colace/コレース (docusate) 100mgを1日2回まで取ります。
妊娠中期
中期に胎動を感じますが、その時期は初めての妊娠では妊娠約19週目、経産婦の場合は約17週目前後です。妊娠中期には下記のような重要な検査も行われます。
・妊娠15〜18週目―Triple Screen というダウン症候群のスクリーニングテストを母親の血液で行います (妊産婦の年齢が35歳以下の時)。胎児にダウン症候群があると、一般にアルファフェトプロテインと hCG という検査項目が上昇します。逆に、非抱合エストリオールは下降します。テスト結果が異常であれば超音波検査を行い、羊水検査を受けるかどうかを産婦人科医と話し合います。60%近くのダウン症候群の胎児がこの検査で発見されるのです。35歳以上の妊婦さんには羊水検査が推奨されていますが、危険も伴うので産婦人科医とよく相談して決めて下さい。
・妊娠16〜18週―スクリーニングの超音波検査を行います。
・妊娠24〜28週―妊娠による糖尿病を発見するための経口耐糖能試験 (ブドウ糖負荷試験) が行なわれます。
妊娠後期
膣出血、早産の徴候に注意が必要です。妊娠による高血圧症状 (視野の霞み、頭痛、急激な体重増加、浮腫=むくみ) にも注意を払います。妊娠後期には以下のような検査が行われます。
・妊娠26〜30週―血球検査で貧血の有無を調べます。
・妊娠28〜30週―Rh (-) の妊婦さんは Rh免疫グロブリンの注射治療を受けます。
・妊娠35〜37週―膣内の group B streptococcus=GBS (B群連鎖球菌=新生児感染症の原因になる) の検査を受けます。
破水 (羊膜が破れ、羊水が膣より出てくる) や陣痛が5分毎に1時間継続する場合は出産の徴候なので、至急産婦人科医に連絡を。また、早期の破水、早期の陣痛、膣出血、浮腫、妊娠中毒症の症状、胎動の低下などの危険な徴候が出てきた時も連絡が必要です。
分娩
正常な出産時期は最終生理から37〜42週間内で、これより早くても遅くても生まれてくる赤ちゃんには健康上のリスクが伴います。
・分娩初期―陣痛が一定に起こり、子宮口が約10cm大に開くまでの間。先ず、子宮口が4cm開くまでの時間はまちまちですが、それ以降は初産婦は1時間当たり1.2cm、経産婦は1.5cmの割合で開いていきます。
・ 分娩中期―子宮口が全開後、胎児が生まれるまで。初産婦の場合は約1時間。経産婦は約半時間です。
・ 分娩後期―胎児が生まれた後、胎盤が出てくるまで。
無痛分娩
硬膜外麻酔という、腰堆近くの硬膜外という部位に麻酔をするやり方で、アメリカではかなり一般的ですが、下記のように適応にならない人もいます。また、それなりのリスクも伴います。
・行えない人―腰椎の穿刺 (せんし) 部位に感染がある、血が固まりにくい、神経性疾患、麻酔薬に敏感な人、脱水、菌血症。
・リスク―低血圧、呼吸停止、麻酔薬に対する異常反応、まれな神経性合併症。但し、分娩そのものにはほとんど影響を与えない。
サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2005年2月1日号に掲載。
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