第6回 肺塞栓症 (Pulmonary Embolism)
症状:胸痛、息苦しさ

58歳のJさんはビジネスマンで、よく飛行機を利用します。今回もヨーロッパへの出張の後、成田空港へ帰って来ました。飛行機に乗っていた頃から息苦しさを感じていたのですが、自宅に着く頃には胸も痛くなってきたので、自宅近くの救急病院に行きました。心電図、胸部レントゲンも異常がないということで、痛み止めをもらい帰宅しました。その夜さらに息苦しさが増してきたので、都内の大学病院の救急室に行き、そこで肺塞栓症と診断され即入院となりました。

一時、エコノミークラス症候群といって、飛行機に長時間乗った後に肺塞栓症になる、ことが大きく報道されました。実際には、飛行機に乗って肺塞栓症が起こるのはごくまれで、その大半の人が血栓が出来やすいリスクを持っている人なのです。また、エコノミークラスの乗客だけに起こるのではないので、最近この名前は変えられたそうです。

肺塞栓症は、アメリカ人より発症率も低く、日本人にはあまり馴染みのない病気かも知れませんが、実際には大半の肺塞栓症は見逃されているのです。アメリカでも肺塞栓症で死に至るケースでも、肺塞栓症として治療されているケースは10%以下にすぎません。なぜ見逃されることが多いのかと言うと、それは診断が難しいからです。胸痛、息苦しさ、咳と症状はいくつもありますが、どれも肺塞栓症だけに特有の症状ではなく、診察上も、呼吸が速いとか、肺音の異常があげられますが、それも肺塞栓症に特有ではありません。胸のレントゲンも心電図も決め手にはなりません。

肺塞栓症の原因はいくつもあります。一番多い原因はふくらはぎの奥にある深部静脈の血栓によって起こりますが、この深部静脈血栓症の原因には、寝たきりで体をあまり動かさない、手術後、先天的・後天的に血栓が出来やすい、癌、ある種の薬の服用などがあります。血栓以外のものも原因になります。例えば、骨折時の脂肪、癌細胞、空気、羊水、寄生虫の卵など。

肺塞栓症の診断は、D-ダイマーという血液検査やVQスキャン、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(核磁気共鳴画像)、肺動脈血管造影のような検査で行います。治療は早い内であれば、血栓溶解剤を。それ以外は入院又は外来でへパリン(低分子重量へパリンを含む)という抗凝固剤の治療をうけます。また、その後3-6ヶ月の経口抗凝固剤による治療も受けます。

サンディエゴの日系紙「Lighthouse San Diego」に2003年4月16日号に掲載。