第43回 たばこの害
禁煙のすすめ―― 喫煙は薬物中毒という認識の必要性

肩身が狭くなる喫煙者

 カリフォルニア州は他州に先駆けて公共の場での禁煙を行ないましたが、現在アメリカでは、喫煙のできる公共の場がどんどん少なくなってきています。それは日本でも同じで、禁煙宣言する病院や公共施設が増えてきています。数年前まで、飛行機に喫煙席があったのがウソのようです。アメリカでは喫煙率は1965年の42.4%から2001年の22.8%に落ちてきましたが、日本でも同様の傾向です。日本人男性の喫煙率は依然として先進国中のトップですが、1997年の52.7%から2001年の45.9%と減少傾向にあります。女性の方は10%の横ばいですが、先進国中最低の喫煙率です。

たばこの社会的インパクト

アメリカでは現在4620万人が喫煙をし、国民1人当たりの年間たばこ消費量はかつての半分以下になっていますが、現在でも喫煙は予防できる死亡・疾病原因の第1位です。毎年44万人のアメリカ人がたばこによる被害で死亡していると推定されています。過去40年間に喫煙が理由で亡くなった人は1200万人に上ると考えられているのです。医療費などで1500億ドル (約16兆円) もの経済的損失をもたらしています。たばこ1箱当たり7.2ドルもの経済的損失が生じるのです。

 日本でも喫煙によって年間95,000人の命が失われ、1兆3000億円の経済的損失がもたらされると試算されています。

中高校生の喫煙

 アメリカの高校生の喫煙率は1997年には36.4%だったのが、2002年には28.4%まで下がってきました。アメリカの中学生の喫煙率は13.3%で平行線をたどっています。日本では、高校3年生の男子が36.9%、女子が15.8%との調査結果があります。中高校生の喫煙は、これらの若い世代が成人後も喫煙を継続し、全体の喫煙率を高める可能性を持つだけでなく、喫煙開始時期が早くなることによって健康への悪影響が増大する可能性があるのです。

たばこによる健康障害

 現喫煙者のたばこによる健康障害のうち73%は慢性肺疾患です。アメリカでは喫煙によって、毎年12万人が肺がん、82,000人が虚血性心疾患、64,000人が慢性の肺疾患で亡くなっています。喫煙は肺がん以外にも口内のがん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、腎臓がん、尿管・膀胱がんの原因になると考えられています。喫煙者ががんで死亡する確率は非喫煙者の2倍で、ヘビースモーカーは4倍にもなります。日本での調査では、喫煙者の肺がん率は非喫煙者の4.45倍 (男性)、35本以上喫煙する男性は8.4倍まで上がります。

 がん以外では、肺気腫や慢性気管支炎の原因になり、喘息の悪化を起こします。また、たばこと心血管系疾患の関係も60年も前から指摘されています (心筋梗塞、脳梗塞、動脈瘤、血管の病気)。妊娠中にたばこを吸うと、妊娠初期には自然流産、中期後期には早産、低体重児出生の確率が高くなります。  喫煙者の寿命は平均して男性で13.2年、女性は14.5年短くなると推定されています。

ニコチン中毒

 たばこには4,000種類以上の化学物質が含まれ、多くの有害物質、ペンゾピレン等40種類以上の発がん物質・発がん促進物質も含有されていますが、ニコチンはその代表的な有害物質です。喫煙とは、言い換えればこの有害なニコチンの中毒ということなのです。

 ニコチンは中枢神経の興奮と抑制の両作用を持っています。ニコチンが体に吸収されると副腎を刺激し、アドレナリン (エピネフリン) というホルモンの分泌を促進し、血圧・呼吸・脈拍を高め、また末梢の血管を収縮します。ニコチンはまた、脳からドーパミンという神経伝達物質の増加を促進し、コカインやヘロイン使用時に起こるような類似の至福感をもたらすと思われています。ニコチンが脳へ到達する速度は極めて早く、たばこを吸ってから僅か10秒以内に脳に到達するのです。

 ニコチンは体内で急速に代謝され、数時間以内に体内から消えてしまいますが、繰り返したばこを吸うことによって、耐性が出来てニコチンの効果は減少し、結果的に喫煙の回数が増えていきます。そして、喫煙を繰り返すことによって、慢性のニコチン中毒になっていきますが、一旦慢性ニコチン中毒になると急激な禁煙はニコチン禁断症状を起こすので、9割の人は再び喫煙をすることになります。

ニコチンの禁断症状

 ニコチンの禁断症状は、落ち着きの無さ、たばこへの渇望、認知力・注意力の欠落、睡眠障害、食欲増進などですが、ニコチンの禁断症状は最後の喫煙から数時間後でも起こりうるのです。禁断症状は最初の数日がピークで、その後数週間かけて減少していきます。人によっては禁断症状が1カ月以上続くときもあります。たばこへの渇望は6カ月以上続くこともあります。喫煙者にとっては、習慣的にたばこを手にし、火を点け、吸うという一連の行為が楽しみになっている場合が多く、そうなると特に禁煙が難しくなります。ニコチンパッチやニコチンガムでニコチン禁断症状はある程度コントロール可能ですが、精神面でのたばこ依存のコントロールは難しいことがあります。

禁煙の開始

 禁煙は自分一人の力だけではなかなか困難です。また、ニコチンの禁断症状も起こりうるので、ニコチン療法および医師やカウンセラーの専門的助言、家族・友人らの協力も必要になってきます。取りあえず、1日の喫煙本数を少しずつ減らし、時期が整ったら禁煙宣言をしてみましょう。以下はアメリカ国立薬物中毒研究所やアメリカ国立がんセンターなどが推奨する禁煙のやり方です。

1.家族、友人、職場の同僚などに禁煙することを表明。そして禁煙への理解と支持を頼みます。

2.家庭、職場からたばこを取り除く。禁煙する前に先ず、1日のうちで多くの時間を費やする場所で喫煙を避けることから始めます (家や車の中)。

3.以前禁煙に失敗した人は、前回の反省を。そして、何故また喫煙するようになったかを考えます。

4.禁煙を始めて最初の数週間を耐える覚悟をします。

禁煙の注意事項

1.禁煙後は、例え1本のタバコも吸ってはいけません。

2.禁煙当初は、特に飲酒も控えます。飲酒が喫煙の引き金になっていることがあるからです。

3.家庭内に他の喫煙者が居ると禁煙成功率は低くなるので、自分だけが禁煙する場合は配慮が必要です。

ニコチンパッチ・ニコチンガム

 以上の心と環境の準備が出来た人は、ニコチンパッチやニコチンガム、あるいはニコチン鼻スプレー・吸入器 (インヘラー) 等の使用を考えます。対象になる人は現在1日に10~15本以上たばこを吸っている人です。ニコチンによる治療は、妊娠中、虚血性心疾患のある人や重篤な不整脈のある人は要注意です。また、パッチに皮膚が荒れやすい人はパッチ以外の治療法を考慮して舌さい。ニコチンパッチ、ニコチンガムは市販されていますが、ニコチン鼻スプレー・吸入器 (インヘラー) は医師の処方箋が必要です。パッチは8週間程かけてニコチン量を減量していきますが、普通2段階ないし3段階に分かれています。ニコチン製品以外には bupropion (商品名=Zyban) という抗うつ薬が禁煙治療に使われる時があります。

低タール・低ニコチンのたばこは安全か

 低タール・低ニコチンたばこは、一見普通のたばこよりも安全であるかのような錯覚を持ちますが、体内のニコチン量を一定に保つよう無意識の調整作用が起こり、吸う本数や吸う強さが増えて、逆に健康への悪影響が増大するという指摘もあるので禁煙の代わりにはなりません。

受動喫煙

 これは自分では喫煙をしないのですが、他人の喫煙により受動的に喫煙状態に置かれるという状況です。受動喫煙も喫煙と同様に健康障害の原因になります。日本での報告では、受動喫煙による肺がんの死亡率は1.2倍、虚血性心疾患の死亡率も1.25倍上昇します。

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2004年2月1日号に掲載。