第41回 誤解の怖い医学英語 
以前アメリカ人医師に言われた診断名を一般の英和辞典で調べ、何年間も診断名を誤解されていた患者さんがおられました。又、ある患者さんは、専門の通訳者によって通訳をしてもらったにもかかわらず、誤った日本語の診断名を教えてもらっていました。医学英語は、英語が得意な日本人にとっても、専門の通訳者にとっても容易なことではありません。それは、医学用語というのが、日本語でも英語でも医学という専門の知識がないと理解が難しいということに関係があります。例えば、Hordeolumという英語を「麦粒腫」という日本語に置き換えても医療関係者で無い限り、アメリカ人でも日本人でもその意味することを把握することは難しいのではないでしょうか。ただこの単語はそれぞれ、「Sty 」あるいは、「ものもらい」、という日常でよく使われる用語に変換すると、理解は極めて簡単になります。

ところが、BOOP = bronchiolitis obliterance with organizing pneumonia という病名を日本語の「器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎」と訳しても一般の人には何のことかさっぱりわからないでしょう。これは医学英語がわからないというよりは、医学知識がないために、その用語が意味する病気のことがわからないからです。もっともこの用語は内科医や呼吸器専門医以外の医師にとっても理解しがたい用語かも知れませんが。

すでに決まった日本語訳のある医学英語

医学英語のほとんどは、相当する日本語名がすでに存在するか、英語の意味する内容を医学専門家が日本語に訳して、定まった日本語訳が存在していることが多いのですが、日本語での医学知識の無い人が医学英語を日本語に訳そうとするとまったく意味の違った日本語に翻訳してしまうというがあります。例えばchronic bronchitisには「慢性気管支炎」という医師であれば誰でも知っている、決まりきった日本語訳がありますが、これを「慢性の気管支炎」と訳してしまうと単に急性気管支炎が少し長く続いている状態だけなのか、本来の「慢性気管支炎」という定義の病気なのか意味不明になってしまいます。

このように家族、友人あるいはプロの通訳者に翻訳してもらった病名が間違うこともあり得るわけなのです。ただ、医師の言っている注意事項さえ理解できれば実際上は大事に至らないでしょうが。問題は他の医療機関に転院する時でしょう。私たち医師が他の医療機関から転院してこられた患者さんを診る際一番必要な情報は、以前の医療機関で何の診断をされたか、あるいは、何の疾患を疑われたか、ということなのです。したがって、その情報が間違っているとその後のケアーに支障が出てくることも考えられます。以前の医療機関からカルテの写しや、病名を英語でそのまま書いてもらって来られると、この支障は最小限になります。

専門用語と一般用語

多くの医学用語には、医学専門用語とそれに相当する一般に使用される用語、それと医師の間だけで使われる用語(省略語やジャーゴン)があります。前述した麦粒腫もその一例です。風邪を引いた時によく出てくる口唇ヘルペス も英語では一般的に、Cold sore と言いますが、医学用語では、Herpes simplex (type 1) infection又は単に oral herpes(ハーピーズ)になります。

小便、大便、おならに関してはいろいろな表現があるので少し詳しく説明してみましょう。普通の英語で「小便」というとurine で「排尿する」は urinateあるいはmicturate と言いますが、医療の世界ではvoid(排尿する)という言葉がよく使用されます。便はstoolあるいは feces ですが、「一日何回お通じがありましたか」というように質問される場合は、BM = bowel movement という言葉で聞かれることが多いでしょう。医学ではdefecation(排便)という言葉が頻繁に使用されます。Pee = おしっこ poop = うんち のような単語は日常の会話あるいは、小児の問診時に用いられます。おならは、俗語ではfartで、一般口語ではgas やwindですが、医療ではflatus や flatulenceという言葉が使用されます。

このような用語はアメリカ人にとっては難しくもなんともない言葉でしょうが、アメリカ人以外にとっては使いわけが難しい言葉です。

医療で使用される省略語

医学英語には省略語が極めて多いので、アメリカ人医師の書いたカルテはまず英語に習熟した日本人や日本人医師が読んでも普通は解読できません。それはアメリカ人医師のハンドライティングのせいもありますが、アメリカでは非常に多くの略語が使われているからです。例えば 55 yo WF, WDWN, w/ PMH of MI c/o CP & SOB. を 45 years-old white female, well-developed well-nourished, with past medical history of myocardial infarction complains of chest pain and shortness of breath. (体格・栄養状態良好で心筋梗塞の既往のある55才の白人女性が胸痛と息苦しさを訴えている)と理解できるようになるのは使用されている省略語が解っていないと不可能です。

アメリカの日常でよくつかわれる病名

アメリカの日常でよく使われる病名と、医学英語名、それにその日本語訳をいくつかの例を挙げてみましょう。以下 英語一般名 = 英語医学名 = 日本語名の順です。 flu = influenza = インフルエンザ、 shingles = Herpes zoster = 帯状疱疹, strep throat = streptococcal pharyngitis =溶連菌による咽頭炎、hay fever = allergic rhinitis = 花粉症 = アレルギー性鼻炎、angina = angina pectoris = 狭心症、high blood pressure = hypertension = 高血圧、fibroid = uterine myoma = 子宮筋腫、heart attack = myocardial infarction = 心臓麻痺=心筋梗塞、renal stone = renal caluculus = nephrolithiasis = 腎結石、hives = urticaria = 蕁麻疹 、walking pneumonia = Mycoplasma pneumonia = マイコプラズマ肺炎、 stroke = cerebral infarction( ischemic stroke) or cerebral hemorrhage = 脳卒中= 脳梗塞、脳内出血、chickenpox = Varicella = 水疱瘡、blow = contusion = 打撲、pimple = acne =acne vulgaris = にきび = 尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)、whooping cough = pertussis = 百日咳、athlete’s foot = tinea pedis = 水虫 = 足白癬、bed wetting = enuresis = 夜尿症、weaning = ablactation = 離乳、formula = 乳児用人工乳

痛みを表す英語表現

最後に、痛みを表す表現は日本語でも英語でも山程あり、どういう表現を使うのが一番適当なのか困難な時がありますが、単に「痛い」と表現したい時は、It’s painful. とかIt hurts. と言えばいいのですが、必ずと言っていいほど医師は次に「どんな痛みですか。」と聞くはずです。そんな時次のような表現の仕方があります。もちろん全部知っている必要はありませんが。

dull(鈍痛-例えばみぞおちに鈍痛がする場合)、sharp(鋭い痛み)、cramping(痙攣痛―足が引きつって痛い時など)、throbbing(拍動性の痛み-偏頭痛で痛い時など)、tingling(ひりひりする-指がひりひり痛む場合など)、pricking(ちくちくする-指が針で刺されたようにちくちく痛む)、stinging (ひりひり痛む)、colicky(せん痛―腎結石のような激しい痛み)、splitting(割れるような痛み)、tearing(裂くような痛み)、stabbing(ナイフで刺すような痛み)、burning (焼けるような痛み-胸焼けがあって痛いような時)、squeezing (絞られるような痛み)、piercing (刺すような痛み)、lancinating(刺すような痛み)、intolerable、unbearable(堪えがたい痛み)、excruciating、 torturing(激烈な痛み)、sore (接触などによる敏感な痛み-皮膚が擦り剥けて痛いような時)、ache (持続性の痛み-歯の痛みなど)、twinge (突然あるいは、一時的な鋭い痛み)

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2003年12月1日号に掲載。