| 第116回 脂肪肝(Fatty Liver) |
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脂肪肝と診断される人が日本でもアメリカでも増加しています。これは脂肪肝が、肥満とメタボリック症候群 (メタボ) と相関しているからです。最近まで、脂肪肝は良性の病態で、放置していても特に重症の状態にはならないと考えられてきましたが、実際には、ごく少ない割合ですが脂肪肝も肝硬変や肝臓癌 (がん) に進行する可能性があるのです。 脂肪肝には、飲酒が原因のアルコール性のものと、飲酒以外の原因の非アルコール性のものがあります。近年は、肥満やメタボリック症候群と関係のある脂肪肝が増えてきているので、今回はこの非アルコール性の脂肪肝に焦点を当て解説をします。
肝臓の役割
肝臓は体の中の工場です。腸から吸収された食べ物を分解したり、エネルギーや栄養素を体の中に蓄えたり、血液を固まらせる凝固因子や食べ物の消化を助けるための胆汁を生成したり、薬やアルコールを分解したり、体内に侵入してきた毒素を処理したりしています。健康な状態でも、肝臓内には脂肪が肝臓重量の数パーセント程度蓄積されています。
脂肪肝とは
脂肪肝とは、中性脂肪が肝臓の細胞内に異常に蓄積した状態です。蓄積された中性脂肪が肝臓重量の10%を超えると脂肪肝という状態になります。 脂肪肝というのは、単に中性脂肪の蓄積があるだけで、肝臓に対するダメージはありませんが、これに炎症、繊維化、壊死 (えし) などの状態が加わると非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) と呼ばれ、炎症で肝臓の組織にダメージを与え、繊維化や壊死を起こします。そして、一部のNASHは時間の経過と共に、肝硬変 (Liver cirrhosis) や肝臓癌に進行していくのです。
脂肪肝のメカニズム
なぜ、非アルコール性の脂肪肝が起こるのか詳しいメカニズムは不明ですが、大きく二つの要因があるのではないかと考えられています。一つはインスリンに対する耐性 (糖尿病、糖尿病予備軍) で、もう一つは肥満です。 インスリンは、肝細胞、筋肉の細胞、それに脂肪細胞に働きかけ、血中の糖や脂肪の量を調整します。インスリンに対してこれらの細胞があまり反応しなくなると (感受性の低下)、糖分や脂肪の代謝に影響が出てきます。結果的に、血糖が高くなるだけでなく、肝細胞に中性脂肪が蓄積するようになります。 中性脂肪は、食事由来のものと、腹部の脂肪、筋肉内から由来するものがあります。肥満があるとインスリンへの耐性は高く、腹部脂肪層や肝臓での中性脂肪の蓄積も高くなります。
脂肪肝とNASH
非アルコール性の脂肪肝がどのようにしてNASHに進行していくのかは、まだ完全に理解されていません。インスリンへの耐性は脂肪肝の原因になるとは考えられていますが、ただそれだけでNASHに移行するわけではないようです。なぜなら、脂肪肝のうちNASHに進行するのはごく一部だからです。 脂肪肝自体の存在がNASHの原因になると考えている研究者もいますが、NASHのリスクになっても、それの原因になっているのかどうかは不明です。 インスリンへの耐性は、NASHのリスクになっても原因にならないと考えている研究者は、脂肪の蓄積以外の他の要因、例えば腫瘍壊死因子アルファ、ミトコンドリア、チトクローム、レプチンなどの関与を考えています。
脂肪肝の他の原因
先天的な代謝異常がある小児を除いて、脂肪肝になるのは大半が中年で、肥満の人ですが、糖尿病や糖尿病予備軍以外にも、カロリーの取りすぎ、高中性脂肪血症、飲酒過多、栄養失調、急速な体重減少、薬 (ステロイドなど)、毒素、後天性代謝疾患などが原因になります。単に、高脂肪の食事をしただけでは脂肪肝にはなりません。
脂肪肝の疫学
アメリカでは肥満の人が多いので、その分、脂肪肝の人も多くなり、NASHの頻度も高くなります。少なく見積もっても、アメリカ成人の5人に1人くらいに脂肪肝があり、その6〜7分の1くらいの人にNASHがあるのではないかと推定されています。これが、2型糖尿病 (成人型) や肥満のある人では著しくその割合が増加します。例えば、肥満のある人では9割に脂肪肝が、2割の人にNASHがあると考えられています。日本では肥満の人がアメリカよりは少ないですが、メタボリック症候群の人が増えているので、成人の10分の1以上に脂肪肝があると考えられています。
脂肪肝の症状
通常、症状はありません。時に、疲れ、漠然とした腹部の不快感、むかつき、倦怠感などを起こします。肝硬変になると、クモ状毛細血管の皮膚への出現、爪の白色化、髪の毛の薄化、抜け毛の増加、生理不順、手足のむくみ、腹水などが現れてきます。 小児で脇の下や首のうしろが黒くなる黒色表皮症 (Acanthosis nigricans) は、インスリン耐性やNASH と関係があると言われています。
脂肪肝の診断
脂肪肝は、人間ドックや定期検診などで、肝臓の酵素であるトランスアミナーゼ (ALT=GPT、AST= GOT) の異常を指摘され、その精密検査の過程で診断されることが多いようです。アルコール性の肝障害の場合は、ALTよりもASTの方が高くなりますが、非アルコール性の脂肪肝ではASTよりALTの方が高くなります。また、ガンマーGTPの上昇も見られますが、アルコール性の場合ほどは高くなりません。フェリチンという値が上昇していることもあります。他の肝臓疾患によるトランスアミナーゼの上昇を除外しないといけないので、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、ヘモクロマト-シスなどの肝疾患に対する検査もします。 脂肪肝の診断は、主に腹部の超音波検査、CTあるいはMRIによって行われますが、それだけでは炎症、繊維化、壊死の有無までは分かりません。必要があると、肝臓の一部組織を取る病理検査が行われます。
脂肪肝の治療
アルコールが原因の脂肪肝はアルコールを断つのが治療で、6週間以内に正常に戻りますが、非アルコール性の脂肪肝の場合、その原因を取り除くのが治療の第一歩になります。そして、多くの場合、生活習慣の改善が治療の柱になります。 食事、運動療法を主とし、肥満のある場合は体重を下げる、糖尿病や糖尿病予備軍、あるいは高中性脂肪血症の場合は、それぞれ血糖や中性脂肪をコントロールします。特に、糖尿病や高脂肪の場合は薬物治療の対象になることもあります。
サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2010年4月1日号に掲載
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