| 第114回 痔(Hemorrhoids) |
|
英語で hemorrhoid というと痔核のことですが、日本語での痔は、痔核 (いぼ痔)、裂肛 (切れ痔)、痔ろう (穴痔) の3種類の痔を意味します。痔核は、さらに内痔核と外痔核に区別されます。 50才までに、約半数の人が何らかの痔の症状を訴えるのではないかと考えられていますが、大半の人はあまり悪化しないで、市販の薬や、生活習慣の改善で治っています。
痔核(いぼ痔)hemorrhoids
肛門内に存在する歯状線という部分の中側にできるか外側にできるかで、痔核は内痔核と外痔核に区別されます。内痔核は肛門外に脱出してない限り外からは見えないし、触れることもありません。外痔核は肛門周囲の皮下にできるので、容易に見ることも触れることもできます。
痔核の原因
痔核の原因は、静脈への圧力で、それによって静脈の腫れが起こります。排便時のいきみ、長時間の座位、便秘や下痢、高血圧、肥満、妊娠、肛門セックスなどが原因です。長時間便器に座っていきむ人や、妊婦さんは要注意です。 内痔核が悪化すると、肛門外に脱出し、脱肛と呼ばれる状態になります、押し込んでも中に戻らない場合は嵌頓 (かんとん) 痔核と呼ばれ、緊急な処置が必要になります。
痔核の症状と検査
痔核の症状は痔核の部位と関係があり、内痔核は通常痛みがなく、出血が主な症状です。外痔核は痛みがあり、時には血栓が形成されて激痛を伴います。 排便時の出血は、便器を赤く染めることもあれば、トイレットペーパーに少量つく程度のこともあります。他の症状としては、肛門周囲の痒みや不快感、脱肛、肛門周囲の腫れ、便のもれなどがあります。 診断は、外痔核の場合、視診、触診で行われますが、内痔核の場合は直腸診 (肛門から指を入れて触診をする) や簡単な肛門鏡でも診断がつかない場合があり、その場合、S状結腸鏡などのカメラで診断します。他の大腸・直腸の病気の可能性もある場合は、大腸ファイバー (大腸カメラ) が行われます。
痔核の治療
症状が軽い場合は、クリーム、軟膏、坐薬などを使います。ステロイド、痛み止めなどが含まれています。外痔核に血栓ができている場合は、切開して血栓を除去します。
外科的処置としては以下のものがあります。
・ゴムバンド結さつ法(Rubber band ligation)--- 特殊なゴムバンドを内痔の根 元にはめ込み、血液の循環を断つ方法。
・硬化療法(Sclerotherapy)--- 痔に液体を注射して痔を小さくします。
・凝固法(Infrared, laser or bipolar)--- レーザーや熱を利用して痔を小さくし ます。
痔核が大きい場合は手術の対象になります。痔切除術が最も確実な治療法ですが、一時的な排尿困難や尿路感染症など合併症も多くなります。他に、痔に行く血流を止めてしまうステープリング法もあります。
生活習慣を変える=自宅でできる治療
肛門を清潔に保ち、入浴後はヘアードライヤーで乾かす。お湯で肛門を温める (できれば1日数回)、腫れや痛みがある時はアイスパックを肛門当てる。 通常のトイレットペーパーの代わりにトイレ用ウェットティシュー (アルコールの含まれてないもの) などを使用。可能であればウォシュレット使用し、排便後洗浄・乾燥をします。
痔核の予防
食物繊維の多く含まれた食事 (果物、野菜、全粒粉など) を取り、便をふっくら柔らかくして、便通を整えるのが重要です。それによって、排便時のいきみを和らげます。他には、水分を十分取る (アルコールはなるべく控える)、食物繊維のサプリメント (Metamucil や Citrucel など) を取る、排便時にいきまない、便意のある時はすぐに排便をする、運動をする、長時間の立位や座位を避ける、十分運動をする――などを守ってください。
裂肛(Anal fissure)
これは、肛門の一部が切れてしまうのですが、赤い血がトイレットペーパーに付いて裂肛の存在に初めて気づくことがあります。裂肛が慢性化すると、肛門ポリープや見張りいぼが出現します。
裂肛の原因
便秘の結果、固い便が肛門を通過する時に、柔らかい肛門の粘膜を傷つけて起こります。また、クローン病、排便時のいきみ、出産後、肛門セックスなども原因になります。
裂肛の症状
切れ痔の症状は出血と痛みですが、出血量は、トイレットペーパーに付く程度から便器を染めてしまう程度まであります。痛みは、排便時や排便後に断続的な痛みや激痛が起こります。排便時の痛みを避けるために、排便の回数を減らしたり、食事の量を減らしたりすると、さらに便が固くなり、痛みが悪化するなどの悪循環が起こります。
裂肛の治療
治療で一番大切なことは、便をふっくら柔らかくするということです。他に、お湯でおしりを洗う、痛み止めやステロイドのクリームや坐薬を使用します。裂肛はこうした治療で9割以上が治癒します。 そうした治療で効果のない時は、ニトログリセリン軟膏を使う方法があります。ニトログリセリンは裂肛部分の血管を拡張し、血流を増やし、裂肛の治癒を早めます。さらに、肛門括約筋をリラックスさせる効果もありますが、この目的でボトックスの注射も使われます。また、患者さんの血液から採取した血小板を濃縮し、裂肛部に注射し、痔の回復を早めようとする治療法も試みられています。 外科的な治療としては、物理的に肛門を広げる方法、手術的に肛門括約筋の一部を切開する方法があります。手術は成功率が高いものの、便失禁とガス漏れなどの合併症が存在します。
裂肛の予防
裂肛の予防は痔核の予防とほとんど同じで、排便時にいきまない、便秘を避ける、肛門をきれいにすることが大切です。排便時に潤滑クリームや軟膏を使う方法もあります。
痔ろう(Anal fistula)
痔ろうは肛門の外部の皮膚と肛門内部の間にトンネルができてしまう病気です。痔ろう自体は痛みなどの症状はありませんが、膿瘍を形成すると、肛門の周りが腫れて激しい痛みが起こります。
痔ろうの原因
肛門内部の肛門腺の開口部である肛門陰窩 (こうもんいんか) から肛門腺に細菌が入ると化膿して、膿の塊である膿瘍 (肛門周囲膿瘍) ができます。この膿瘍が肛門の皮膚に破れて膿が出ると、皮膚との間にトンネルが形成されます。また、膿瘍の切開で人工的にトンネルができることもあります。このトンネルが塞がると、また膿瘍を形成します。
痔ろうの症状と診断
痔ろう自体は分泌物や膿で下着を汚したり、痒みを起こしたりしますが、痛みを伴いません。膿瘍ができると、激しい痛み、腫れ、発熱を伴ってきます。膿瘍が破れて一時的に痛みが軽減しても、痔ろうのトンネルが塞がって再び膿瘍ができ、痛みが繰り返されることがあります。 痔ろうの診断は、視診や触診以外にも、痔ろうのトンネルに器具を挿入したり、着色液を注入したり、造影剤を入れてレントゲンで写したり、MRIを利用する方法があります。
痔ろうの治療
緊急の治療としては、膿瘍の切開をして排膿しますが、膿瘍の治癒後、痔ろうそのものの手術が必要になります。 痔ろうの手術は、痔ろうの種類によっては複雑になります。肛門括約筋を部分的に切開することになるので、肛門括約筋へのダメージを最小限にする手術法も開発されています。こうした痔ろうの切開と反対に、痔ろうを塞いでしまう治療法も行われています。フィブリンという血液の蛋白質から作った接着剤 (Fibirin glue) やコラーゲンを使って塞いでしまう方法です。
痔ろうの予防
効果的な予防法が存在するわけではありませんが、痔核、裂肛の場合と同じく、食物繊維を十分とって、便通を整える、水分を十分取る、運動をする、排便時にいきまない、アルコールを控えるなどを守りましょう。
最後に
肛門からの出血は痔の主な症状ですが、年齢やリスクによっては、大腸がんや大腸ポリープ、あるいは他の大腸疾患の可能性もありますので、必ず医師を受診してください。
サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2010年2月1日号に掲載
|
