第110回  乳児突然死症候群(Sudden infant death syndrome = SIDS)

 

 1980年代の後半、日本で赤ちゃんのうつ伏せ寝が流行 (はや) っていた時、アメリカではうつ伏せ寝が一因とされた乳児突然死症候群=SIDS=が問題になっていました。(丁度、私も生まれたばかりの長女をうつ伏せで寝かせていたので、驚きのニュースでした) 

 アメリカでのSIDSによる乳児の死亡数は、1980年年代には年平均5,000から6,000あったのが、アメリカ小児学会の仰向けキャンペーンなどで2000年以降は2,000程度に下がりました。1992年から1998年の間にうつ伏せ寝は全体の7割から2割に減少し、それにつれてSIDS4割減少したのです。

 日本では、SIDSによる乳児の死亡数はアメリカほど多いわけではありませんが、仰向け寝のキャンペーンによってSIDSの死亡数は減少しました。日本でのSIDSによる乳児の死亡数は2007年は158人で、1才未満の乳児の死亡原因の第3位になっています。因みに、アメリカでもSIDSは、1年未満の乳児の死亡原因の第3位です。

 

 

 

SIDSとは?

 

 SIDSは予期しない1才未満の乳児の突然死ですが、特に病気もなく健康そうに見える赤ちゃんの睡眠中に起こります。ほとんどのSIDSは生後2か月から4か月の赤ちゃんに起こります。1か月未満と6か月以上の赤ちゃんに起こるのはまれです。

 

 

SIDSの原因  

 

 未だにSIDSの原因は分かっていませんが、幾つかの要因が組み合わされて起こっているのではないかと考えられています。その一つにトリプル・リスク・モデルという考え方があります。これは3つの因子群があり、それらの因子群が重なってSIDSが起こるというものです。

 

・乳児側因子:

 健康そうに見えても、SIDSを起こす乳児は脳や心臓に欠陥があると考えられています。呼吸や覚醒をつかさどる脳の部分における異常、脳幹という部分の発達遅延、神経の伝導に関係のある神経周囲のミエリンという部分の発達の遅れ、あるいはQT症候群などの不整脈を起こす心臓の欠陥などです。

 

・発達期間的因子:

 乳児の誕生から生後6か月という期間がSIDSにとって非常に重要なのです。この発達期間中には、急速な成長により体にいろいろな変化が起こります。覚醒、睡眠パターン、呼吸、心拍数、血圧や体温にも影響が及ぼされます。こうした変化により、乳児体内環境が一時的に異常をきたしてしまうのです。

 

・外部因子:

 体外の様々な因子です。例えば、タバコへの暴露、暑すぎる室温、うつ伏せ寝などの環境因子や風邪などの感染など。

 

 

SIDSの診断

 

 SIDSの診断は容易ではなく、突然死を起こす可能性のある他の病気を除外しなくてはいけません。その上で、(1) 死亡状況調査、(2)剖検 (病理解剖) (3)乳児及び家族の医学的調査によって総合的に診断されます。それには警察や法医学関係者が関与し、最終的には病理学者がSIDSを診断します。

 死亡状況調査では、SIDSが起こった場所の調査に加えて、両親や赤ちゃんの世話をしていた人全員を面接します。そして、「何時に赤ちゃんをベッドに入れたのか?」「最初に赤ちゃんが死んでいると発見したのは誰か?」などの質問をします。

 SIDSの診断で最も重要なのは病理解剖である剖検です。剖検以外で診断がつかない時は取り立てて重要です。SIDSと疑われたケースのうち約15%は他の原因だったと剖検で診断されています。また、剖検は両親の心の安楽のためにも重要です。赤ちゃんの死因が自分たちの責任でなかったと理解するだけでも心の負担は和らぎます。また、幼児虐待の濡れ衣を晴らすこともできます。そして、両親も赤ちゃんの死を受け入れるきっかけになることができます。

 さらにこれらの調査は、家族や赤ちゃんの医学的調査でより確かになっていきます。

 

 

SIDSの危険因子

 

 SIDSを起こしやすくする危険因子としては、男の乳児、生後1か月から6か月の乳児、低出生体重児、うつ伏せ寝、やわらかいベッド、たばこの煙、秋や冬に生まれた乳児、厚着、何枚もの毛布や掛け布団の使用、風邪の罹患、SIDSの家族歴などです。

 母親側の危険要因としては、20才以下で初産、妊娠と次の妊娠までの期間が短い、妊娠中と出産後の喫煙、胎盤の異常、妊娠中の体重の増減、貧血、アルコールや違法ドラッグの使用、性感染症と膀胱炎の既往などです。

 

 

SIDSの予防

 

 最も大切なことは仰向けに寝かせるということです。横向きに寝かせても、そのままうつ伏せになることがあるので、最初から仰向けで寝かせましょう。他の予防法としては、部屋でたばこを吸わない、硬めのマットレスを使う、毛布やふとんを何枚も使用しない、ベッドに枕やぬいぐるみなどを置かない、乳児を寝かせる時に服をいっぱい着せない、毛布は軽い物にする、毛布は乳児用ベッドの足元で固定し、赤ちゃんの肩までしか被せない、毛布がずれないようにする、赤ちゃんを大人用のベッドに寝かせない (ベッドとベッドフレームやヘッドボードとの隙間で窒息する可能性がある)、小さいうちは親と一緒に寝ない、赤ちゃん用ベッドを自分たちと同じベッドルームに入れておく、母乳で育てる――などなどです。

 それ以外には、寝るときにおしゃぶりを与えます。ただし、強制するのではなく、母乳児は生後1か月を過ぎてから昼寝や夜寝るときに与えます。赤ちゃんが寝ている間におしゃぶりが口から離れた場合は口に戻さないことです。

 部屋は赤ちゃんにとって適当な温度にしておきます。寝ている間に汗をかくようであれば、暑すぎる可能性があります。

 

 

最後に

 

 乳児がSIDSで亡くなると、親は突然の乳児の死に非常な悲しみを持つのと同時に罪の意識に悩まされます。生きているのが当然という意識があるので、突然の乳児の死を受け入れるのは容易ではありません。SIDSは、乳児をどんなに愛し、様々な予防的な処置をしても起こりうるのです。そういう意味では、SIDSの本当の原因は未だ究明されていないとも言えます。

 

 

 サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2009年10月1日号に掲載