第102回 自己免疫疾患(Autoimmune Diseases)

自己免疫疾患という言葉を聞く機会が最近増えているのではないかと思いますが、自己免疫疾患に含まれる病気は、今では80を越えています。その代表が、Ⅰ型糖尿病、関節リウマチ、バセドウ病などです。今回は、この自己免疫疾患について簡単に解説をします

自己免疫疾患とは

 

 自己免疫疾患は、個々の病気を指すのではなく、80以上ある病気のカテゴリーで、免疫システムの機能不全によって起こる病気群のことです。体には病気や感染から守るための免疫システムがあります。この免疫システムは、体外から細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入してくると、その異物を攻撃して体を守ります。また、体内で発生した腫瘍も異物と認識して攻撃をします。

 この免疫システムが正しく機能するためには、自分の体の構成物 (自己) と体内外からの異物 (非自己) を区別して認識する必要があります。そして、その異物 (非自己) のみ敵として攻撃をするわけです。その攻撃の手段に体は抗体というものを作ります。

 この免疫システムの機能が何らかの理由で異常をきたすと、自分の体の構成物を「異物」と誤って認識し、体の構成物に対する抗体、すなわち「自己抗体」を作って攻撃を加えてしまいます。例えば、甲状腺の組織を「異物」と誤認して免疫システムが攻撃すると、甲状腺の機能が異常に高まったり、あるいはその反対に異常に下がったりします。膠原 (こうげん) 組織に攻撃を加えると全身性エリテマト-デスのような膠原病になり、関節を始め、心臓、腎臓など広範囲の臓器に影響が出ます。攻撃対象となる器官は他に、神経、筋肉、内分泌組織、消化管などがあります。

 

 

自己免疫疾患の原因

 

 自己免疫疾患の原因は不明ですが、細菌やウィルス感染、あるいは外傷、日光、放射線、薬などがトリガー (起因) になるのではないかと考えられています。例えば、ウイルスの感染により体のある組織が変質し、それを免疫システムがその変質した組織だけでなく、体の構成物も異物と誤認すると、免疫システムによりその臓器・組織が攻撃されて正常に作動しなくなります。

 体の構成物に対して自己抗体が作られると、その自己抗体が攻撃時に動員させられます。例えば、膵臓のランゲルハンス島という部分に対する抗ランゲルハンス島抗体という自己抗体ができると、それがランゲルハンス島を攻撃し、ランゲルハンス島に存在するベーター細胞からのインスリンの分泌を抑えてしまいます。この結果、Ⅰ型糖尿病が起こるのです。

 

 

自己免疫疾患になりやすい人

 

 自己免疫疾患は2040歳の若い年齢層の女性に多く見られ、アメリカでは患者さんの8割近くが女性です。家族に集中して起こることがあり、遺伝の関与が考えられていますが、特定の自己免疫疾患が直接遺伝するのではなく、遺伝によって自己免疫疾患になりやすくなるだけだと考えられています。その病気の発現に、感染などの後天的 (環境的) 要因が関わっているのです。 

 

 

自己免疫疾患の代表的疾患

 

 自己免疫疾患の範疇 (はんちゅう) に入る病気は下記に解説をするもの以外にも、アジソン病、円形脱毛症、皮膚筋炎、ギランバレー症候群、重症筋無力症、アレルギー性喘息 (ぜんそく)、潰瘍性大腸炎などあります。また、現時点で自己免疫疾患ではないがその可能性があると考えられている疾患としては、子宮内膜症、慢性閉塞性肺疾患、総合失調症 (旧名:分裂病) などがあります。

 

 

・橋本病(Hashimoto’s thyroiditis

 

 橋本病では、甲状腺に対する自己抗体 (抗サイログロブリン、抗マイクロゾーム抗体) によって甲状腺組織が破壊され、その結果、甲状腺ホルモンが低下して甲状腺機能低下症になります。症状としては、いらいら、寒がり、便秘、甲状腺の腫れ、食欲低下、むくみ、皮膚の乾燥、生理不順、筋力低下などがあります。甲状腺ホルモンの補充によって症状は改善します。

 

 

・バセドウ病(Graves’ disease

 

 下垂体によって産出された甲状腺刺激ホルモン (TSH) は、甲状腺表面にある受容体を刺激して甲状腺の働きを亢進しますが、この受容体に対する自己抗体 (TSHレセプター抗体=TRA) ができると、TSHの代わりに受容体を刺激し、甲状腺ホルモンを異常に分泌してしまいます。その結果、甲状腺機能亢進症を起こします。

 症状としては、いらいら、食欲増進、体重減少、暑がり、指の震え、多汗、動悸、眼球突出、下痢などがあります。治療は、アイソトープ(放射性ヨード)や抗甲状腺薬を使って甲状腺ホルモンの分泌を抑えます。

 

 

・全身性エリテマトーデス(LupusSystemic lupus erytematosus

 

 遺伝的因子と環境因子が双方に関与していると考えられていますが、原因は不明です。膠原病の代表的な病気で、アメリカでは一般的にループスと言われています。皮膚、心臓、肺、腎臓、神経など広範囲の臓器組織に影響が出ます。症状としては、関節の腫れや痛み、顔の蝶形紅班、日光過敏、口内炎、胃腸症状などがあります。ステロイドの使用によって、劇的に生存率が改善し寿命も延びました。免疫抑制剤も治療に使われます。

 

 

・多発性硬化症(Multiple sclerosis

 

免疫システムが神経を被う髄鞘 (ずいしょう) を攻撃すると、脳や脊髄の中枢神経機能が障害されます。

症状としては、四肢の感覚異常、麻痺、言語障害、歩行異常、視力低下、顔の感覚や運動麻痺、歩行障害、しびれ、発語障害、手の震えなど。体の様々な部位にいろいろな時期に神経学的な異常が起こります。治療にはステロイドや免疫抑制剤が使われます。

 

 

・関節リウマチ(Rheumatoid arthritis

 

 関節炎を起こす病気で、膠原病の一つに数えられます。免疫グロブリンの一つ、IgG に対する自己抗体であるリウマチ因子が高率に陽性で、他にもいろいろな免疫異常があり、感染がトリガーになっていると考えられています。症状は、関節痛以外にも、筋肉痛、体重減少、疲れやすさ、関節の変形、食欲不振などを起こします。診断には、6週間以上続く手指のこわばりなどの症状の有無が重要です。血液検査ではリウマトイド因子や抗CCP抗体を調べます。治療は、対症療法から免疫療法まで広範囲の選択肢の中から選ばれます。

 

 

自己免疫疾患の症状

 

 多くの自己免疫疾患では熱が出ます。臓器特有の自己免疫疾患では、甲状腺であれば甲状腺機能の異常による症状が出ます。また、全身の組織に影響のある全身性エリテマトーデスのような病気では、関節や筋肉だけでなく、心臓、肺、神経などに広範囲の組織からの症状が出ます。

 自己免疫疾患の多くは、症状が軽減したり悪化したり、一時的に症状が完全に無くなかったと思うと急に悪化することもあります。中には、完全に「治癒」する自己免疫疾患もありますが、多くはこのような軽減と悪化を繰り返していきます。

 

 

自己免疫疾患の診断

 

 自己免疫疾患の診断には、まず問診と診察が行われます。例えば、関節リウマチの場合、朝のこわばりの有無、関節炎の部位、関節炎の状態などの情報は診断上重要になります。診察では、皮疹や関節の変形など自己免疫疾患特定の病気によく見られる所見を調べます。血液検査は一般的な検査と共に自己抗体を測定します。橋本病での抗マイクロソーム抗体、抗サイクログロブリン抗体、Ⅰ型糖尿病での抗ランゲルハンス島抗体、重症筋無力症での抗アセチルコリンレセプター抗体といった具合です。レントゲン、CTMRIなどの画像診断も診断補助に用いられることがあります。

 

 

自己免疫疾患の治療

 

 治療には、症状を抑える対症療法と、病気そのものの進行を抑えたり治癒を目的とする免疫療法があります。

 例えば、関節リウマチでは、関節の痛みを抑えるために市販の抗炎症鎮痛薬や処方箋による薬を使用しますが、免疫療法も開始されます。免疫療法によって関節痛が和らぐので、抗炎症鎮痛薬の使用量が結果的に少なくなります。

 アザチオプリン、サイクロスポリン、メトトレキサートのような免疫抑制剤は自己抗体による攻撃を抑えますが、同時に感染に対する防御機能も低下させてしまうので、免疫抑制剤を使用している間は感染にかかりやすくなります。

 ステロイドやエタネルセプト、インフリキシマブ、アダリムマブなどの腫瘍壊死因子 (TNF) 阻害剤、その他様々な薬が自己免疫疾患の治療に使われています。また、今研究中の薬も数多くあります。こうした治療薬によって、自己免疫疾患による死亡率や生活の質はここ数十年で著しく向上してきました。

 

一般的注意

 

 対症療法、免疫療法などの治療とは別に、一般的な健康に注意を払うのも大切です。健康的なバランスの良い食事をする、ビタミン・ミネラルなどはサプリメントよりは自然の果物や野菜から取ること、バランスのいい食事をする———など。

 他に、130分程度の運動を行う、運動量は徐々に増やしていく、十分な休息や睡眠を取り、ストレスの解消をする———などです。

 

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2009年2月1日号に掲載