第64回 肩の痛み(Shoulder pain)
極めて広範囲の可動域を持つ肩ですが、それゆえ、いろいろな問題も起きやすく、肩の痛みもその一つです。アメリカでは年間で1400万人以上が肩の問題で医師を受診し、そのうち肩の痛みを訴える人は400万人近くもいます。肩の痛みの主な原因の一つである肩の外傷はスポーツ、特に水泳、テニス、投球、ウェイトリフティングのように、腕を頭上に挙げる動作のあるスポーツでよく起こりますが、日常の仕事や家事でも起こります。

肩の構造

 一般的に肩と呼ばれている部分は、骨 (上腕骨、関節窩、肩甲骨、肩峰、鎖骨) と、それを取り巻く靱帯、腱、筋肉、関節包、滑液包などで成り立っています。普通、肩の関節というと肩関節=上腕関節窩関節=を指しますが、それ以外にも小さな関節が存在します。肩関節は、腱板 (Rotator cuff) という4種類の筋肉ないしその腱によって基本的に支えられています。 但し、周りを骨などしっかりした構造物が支えているわけではないので、よく脱臼を起こすことがあります。

肩の痛みが起こったら

 先ず、どのように肩の痛みが始まったかを思い出して下さい。若い投手の突然肩が痛くなるのと、50才台の人の徐々に肩が痛くなるのとでは、考えられる疾患が異なってくるからです。また、スポーツや仕事中に発生したかどうか、痛みの場所、痛みの種類、外傷の有無、しびれや感覚の異常、筋力低下の有無、基礎疾患になり得る内科的な病気があるかどうか、痛みがひどくなってきているのか、あるいは改善してきているのか、痛みを和らげる要因と悪化させる要因、肩の動きの制限なども重要な情報です。

肩の痛みの診断

 肩の痛みの診断は、患者さんからの情報を基にして、医師はいくつかの可能性のある疾患を考えながら診察をし、諸検査を行なっていきます。医師の診察では、関節の可動域、変形、腫れ、筋力の低下、圧痛の部位などを調べます。X線検査やMRIで関節、筋肉、靱帯の状態を調べることもあります。それ以外にも特殊な検査があります。

治療

 治療は、氷などで冷やす (急性の場合)、痛い肩の動きを避ける、理学療法、肩の筋力強化と柔軟性を高める、抗炎症鎮痛薬あるいは注射による治療などもあります。大半の肩の痛み(9割近く)は、こうした「保存的治療」で改善しますが、緊急性のある場合や、保存的治療が効果のない時は手術の適応になります。また、肩の痛みの予防のためには、肩の使いすぎを避けることが重要です。

腱炎 (Tendinitis)/ 滑液包炎 (Bursitis)

 腱は主に筋肉と骨を接合する役目を持ち、大半の腱炎は長期に渡る使いすぎによって起こります。急性の腱炎はボールを投げすぎたり、スポーツや仕事による使いすぎ、慢性の腱炎は加齢による変性変化や反復使用による消耗や外傷によって起こります。腱の断裂と裂傷は急性の外傷や変形性変化が原因で起こります。

 肩を使いすぎた時、滑液包の炎症と腫れ、すなわち滑液包炎が起こることがあります。滑液包は液体の入った袋で、関節の周りにあり、肩の動きによる摩擦を和らげる働きをしています。

関節炎 (Arthritis)

 肩の痛みは関節炎でも起こります。いくつかのタイプの関節炎がありますが、基本的には関節の炎症による消耗、傷害などで、腫れ、痛み、硬直を起こします。関節炎はスポーツや仕事上の外傷後にも起こることがあります。痛みを避けるために肩の動きを制限する人が多いのですが、その結果、関節の硬直化や硬化を起こします。

肩鎖関節の捻挫および離開 (Acromioclavicular joint sprain and separation)

 肩鎖関節の捻挫は、肩前面上部や上腕に対する横からの力が直に加わると起こります。損傷の度合いは6段階ありますが、変形があるとその段階が高く、3度以上の損傷の場合は手術の適応になることが多くなります。

腱板損傷 (Rotator cuff tear)

 腱板は4つの筋肉とその腱で構成されます。腱板損傷は40才以上の人によくみられますが、この場合、発症は徐々に起こり、頭上よりも腕を挙げる行為と関係があることがあります。若い人では、外傷が原因で急性に起こることがほとんどですが、この場合も水泳、テニス、投球など、頭上に腕を挙げる行為が多いスポーツで多く発症します。当初の痛みは、腕を頭上に挙げた行為をした時のみかもしれませんが、経過と共に、痛みは肩を動かさないでも出るようになります。肩の前部の痛みが腕にかけて放散することもあります。夜寝る時に、損傷側の肩を下にして眠れなかったり、髪をといたり、背中のファスナーに手が届かなかったりします。治療は、外傷や急性の場合、特に若い人では手術の適応になることが多くなりますが、手術以外の方法では、肩の安静、頭上に腕を挙げることの制限、抗炎症鎮痛薬、三角巾、ステロイドの注射、理学療法などがあります。

インピンジメント症候群 (Impingement syndrome)

 腱板を構成するいくつかの腱は、上腕骨と肩の端 (烏口肩峰弓) の間の隙間を占めていますが、腕を広げて挙げていくと、腱板の一部の腱がこの隙間で骨の間に挟まれてしまうことがあります。そうすると、痛みが肩の前部から側面にかけて発生したり、しびれが上腕に起こったりします。腕を頭上に挙げるような行為でよく起こり、夜に痛みがひどくなります。何かはじけたような感じがすることもあります。若い投手で、インピンジメント症候群がある場合は、SLAP損傷 (後述) の可能性を疑います。

 年配の人では、慢性的な使いすぎや、腱板を構成する筋肉の一つである棘上筋の加齢による変形性変化によることが多く、これは1次的インピンジメント症候群と呼ばれています。それと対照的に、若い投手では、肩の不安定性による2次的なインピンジメント症候群の可能性が高くなります。後者の場合、痛みよりも、腕の重さやしびれを訴えることが多くなります (デッドアーム症候群)。

 治療は、急性期では、痛みの起こる動作、特に頭上に上肢を挙げるような動作を避ける、肩を休める、抗炎症鎮痛薬、冷やすことなどが重要です。痛みが和らいだ後に腱板を強化するリハビリをします。ステロイドと局所麻酔薬を混ぜた注射も効果があります。

五十肩 (Frozen shoulder) 

 四十肩とも言われますが、五十肩と一般に呼ばれている病気は、肩関節周囲炎、有痛性肩拘縮症、癒着性関節包炎と様々な医学用語で表現され、その病名で表現される病態も異なってきます。但し、アメリカで一般的に使われている Frozen shoulder は癒着性関節包炎と同義です。

 五十肩では、肩関節の関節包の肥厚や拘縮によって肩の動きに制限ができ、痛みが起こります。五十肩は徐々に症状が悪化していきますが、通常、痛みは肩の横が多く、上腕に起こることもあります。五十肩があると、痛い側で横になって寝ることが困難になってきたり、腕を挙げることが難しくなってきます。

 五十肩のリスクとしては、糖尿病、甲状腺機能亢進症などの内科疾患や、肩の外傷等があります。治療は、抗炎症鎮痛薬と可動域を広げる理学療法が基本です。場合によっては、関節内ステロイド注射も効果があります。難治性の場合は手術を考慮します。

その他の肩の疾患

 肩の上方の痛みと、動きに伴うクリックやはじける音を感じることがあるSLAP損傷 (SLAP tear=前後における上方関節唇損傷)。胸郭出口を通過する神経や血管が圧迫されるために起こる胸郭出口症候群。肩の筋肉が十分に発達していない少年期の投手によく起こる、上腕骨骨端線の骨折であるリトルリーグ肩 (上腕骨近位骨端線離開)。その他、腫瘍、感染、直接肩と関係のない病気による肩の痛みもあります。

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2005年11月1日号に掲載