第56回 いびき & 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
いびきで悩む人の数はかなり多いと思われますが、悩んでいるのはいびきをかいている本人ではなく、一緒に寝ているパートナーや家族が大半です。いびきをかく本人は自分のいびきに気付いていないのが普通です。その結果、いびきが主訴の患者さんは「私の女房が、一度医者に診てもらえと言うもので…」というように、他人に促されて受診に来られることが多いのです。 いびきがひどくなって、睡眠時に呼吸が一時的に止まる「睡眠時無呼吸」になると、心血管系を始めとする様々な健康障害が起こる可能性が出てきます。重症の睡眠障害では死に至ることがあるため、最近では睡眠時無呼吸に対する認識が高まってきているのです。

 アメリカでは1200万に上る人が睡眠時無呼吸の影響を受けているのではないかと推測されていますが、睡眠時無呼吸は翌日の意気低下、傾眠につながり、仕事上のミスも多くなり、社会に与える影響も甚大です。居眠り運転士による山陽新幹線事故のように、睡眠時無呼吸が原因と考えられている事故も少なくありません。また、睡眠時無呼吸は「なまけ癖」「うつ病」などに間違えられることもあり、正しい認識を持つ必要性も高まっています。

いびき

 主に咽頭で、軟口蓋や舌が重力で落ちたり、他の原因で咽頭が狭くなって起こります。いびきの原因になるものとしては肥満、就寝前の飲酒、鼻づまり、アデノイドや扁桃腺の肥大、妊娠後期、睡眠薬や抗ヒスタミン剤の服用のほか、気道を圧迫する行為一般などです。原因が分かっている場合は、それを取り除くことでいびきは軽減します。  いびきがひどくなると、規則正しいいびきをしていた後に、突然息が止まってしまう睡眠時無呼吸が起こることがあります。無呼吸は「10秒以上の呼吸停止」を意味しますが、中には60秒近くも止まってしまう人もいます。

閉塞性睡眠時無呼吸

 睡眠時に起こる無呼吸には、脳や脳神経などの影響で起こる中枢性無呼吸、気道の閉塞などで起こる閉塞性無呼吸、それに両者が原因となる混合性無呼吸がありますが、今回は、その中でも頻度の高い閉塞性睡眠時無呼吸 (OSA) について説明します。

 正常な状態では咽頭の上の部分の筋肉は開いていて、空気が肺に入るようになっています。睡眠状態ではこの筋肉は弛緩しているのですが、空気の通路は十分開いています。この通路が狭くなって、完全に閉じてしまうと無呼吸の状態になり、空気が肺に到達できなくなってしまいます。こうした睡眠時の無呼吸は、普通はレム睡眠という浅い眠りの時に起こり、呼吸が10秒以上停止します。無呼吸の後、突然再び呼吸が始まるのですが、この「再び起こる呼吸」によって眠りは浅くなってしまいます。無呼吸は一晩の間に何回も起こり、結果的に睡眠が断片的になり、十分に休息ができなくなって、翌日の日中に眠気を起こすようになるのです。

 OSAを起こすリスクとしては、鼻づまり、大きな舌、狭くなった気道(空気の通路)、後退した顎や小さい顎、太い首、睡眠前の飲酒や沈静剤の服用などがあります。それ以外にも、甲状腺機能低下症、末端肥大症、腎不全、側わん症による拘束性肺疾患などがリスクになります。

閉塞性睡眠時無呼吸の症状

 無呼吸は睡眠中に何度も起こります。中には一晩で何百回も起こす人もいますが、本人は自覚しないのが普通です。無呼吸の後で覚醒することがありますが、それも本人は覚えていません。無呼吸の間、血液中の酸素レベルは落ち、長く続く低酸素状態は日中の傾眠や注意散漫など様々な症状を起こします。重症のケースでは肺高血圧症による右心不全、または肺水腫を起こします。

 一般的な症状としては大きないびき、無呼吸、寝不足感、日中の眠気、朝の頭痛、注意力散漫、記憶障害、判断障害、人格変化、傾眠、活動過多、高血圧、自動行為、足のむくみなどがあります。特に、翌日の日中の倦怠感や眠気は仕事の能率にも影響を及ぼし、中には注意力散漫で交通事故や仕事中の事故を起こす人もいます。

 子供の睡眠時無呼吸は成長障害、ADHD、学業障害、学習障害、おねしょ、高血圧などの原因になることがあります。

OSAの診断

 OSAは、(1)無呼吸状態が10秒以上続く、(2)1時間当たり5回以上の無呼吸がある、(3)酸素飽和度が4%以上低下する、といった特徴があります。ただし、いびきや無呼吸の有無は本人に聞いても分からないので、患者さんのパートナーに確認する必要があります。下記のような質問状を利用するのも一つの方法です。

1)大きないびきをかきますか?

2)パートナーの方から、あなたのいびきについて文句を言われたことがありますか?

3)自分のいびきで、夜に目が覚めることがありますか?

4)パートナーの方から、夜にあなたが喘いだり、息が詰まる音を立てていると言われたことがありますか?

5)朝、口の中が乾燥していたり、咽頭が痛かったり、頭痛が起こることがありますか?

6)日中、起きていなければならない時間に眠ってしまうことがありますか?

7)日中によく疲れますか?

8)高血圧がありますか?

(米国家庭医学会)

 OSAを診断する方法としては、ポリソムノグラフィ (polysomnography) という、睡眠中に脳波、心電図、胸の動き、血中酸素モニターなどを同時測定する検査があります。そして、AHI (無呼吸低呼吸指数) や RDI (呼吸撹乱指数) などを計算し、OSAの診断やその重症度の評価に使用されています。ただ、検査費が高く、どこでも簡単に検査可能というこではないので、代わりに、血中酸素濃度だけをモニターする睡眠検査が一般に行われています。但し、この方法は簡便ですが、ポリソムノグラフィほど正確ではありません。

治療

 肥満の人はまず減量が大切です。10%痩せるだけで劇的に無呼吸が改善されることもあるのです。但し、あまり劇的な効果が現れない人もいます。改善のない人は顎の形態上の異常の有無を調べてもらいます。異常がある場合は、減量だけではあまり効果がないからです。就寝前の飲酒、鎮静剤や睡眠薬の服用は避けます。また、なるべく仰向けで寝るのをやめて横向きで寝ます。

 原因部位が特定できれば、鼻孔を開く小片、舌が後ろに落ちるのを防ぐ固定装具、あるいは顎を前に突き出すようにする固定装具などを利用する方法があります。鼻用マスクで圧力をかけながら呼吸するCPAP (持続陽圧気道圧) は中度・重症の人に使います。

 非外科的方法で改善しない中・重度のOSAは外科的手術の適応になります。外科手術としては、肥大した扁桃腺やアデノイドの摘除、いびつな鼻中隔を直す手術、上部咽頭部の狭くなった所を広げる手術、手術や注射で口蓋を硬くする方法、咽頭の奥の組織を除去するUPPP (uvulopalatopharyngoplasty) などがあります。UPPPは軟口蓋、口蓋垂、余分の咽頭周囲組織の一部や扁桃腺を除去する手術ですが、効果は報告によってまちまちです。又、液体などの鼻への逆流が手術の後遺症として残ることがあります。

 レーザーを使用し、外来手術が可能なLAUP (laser-assisted uvulopalatoplasty) という手術法が最近よく行われていますが、この手術は、「睡眠時無呼吸の手術」と言うよりは、「いびきの手術」として考えたほうがいいかもしれません。極度の肥満の人には胃の手術をして肥満を治療したり、顎の後退している人にはその矯正手術をすることもあります。子供の場合は、扁桃腺とアデノイドを除去するだけで、睡眠時無呼吸が治癒することがあります。

合併症

 OSAの合併症は実に多く、特に心臓血管系の合併症は死に至る可能性があるだけに深刻です。それ以外に注意力低下による事故も社会問題になってきています。合併症を挙げると、高血圧、右心不全、不整脈、二酸化炭素過多、睡眠障害、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、インポテンツ、情緒障害、交通事故、仕事中の事故などがあります。

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2005年3月1日号に掲載