| 第57回 シックハウス症候群 (Sick House Syndrome) |
|
家の中の空気が大気よりも汚染されているかもしれない――ということをご存知ですか。実際に、多くの都市部では室内空気の方が大気よりも汚染されています。とりわけ、体に有害な一酸化炭素や一酸化窒素などの揮発性有機化合物の空気中の濃度は、室内の方が外気よりも高いのです。大半の人は、1日のうち8~9割の時間を家、アパート、ビルなどの建物の中で過ごします。中でも、空気汚染の被害を受けやすい乳幼児や高齢者は、平均して95%以上の時間を建物内で過ごしています。従って、室内の空気汚染は程度が軽度でも、長期間に及ぶと健康に与える影響は計り知れないものがあるのです。
アメリカを始め多くの国では、1973年のオイルショック以降、エネルギーの消費量を減らすため、室内換気の基準を大幅に緩和しました。その結果、室内外の空気の換気が減り、室内の空気汚染が進行するようになったのです。室内空気汚染の悪化は建物内にいる人の健康に影響を与えます。この健康障害は、現在シックハウス症候群(*注1)として広く認知されるようになり、アメリカでは室内換気基準が以前のレベルに戻るようになりました。 シックハウス症候群 シックハウス症候群は、汚染された空気を室外に出し、きれいな外気を室内に取り入れる「呼吸」が自分でできない「閉鎖された家」には必然的な問題なのかもしれません。最近の建物は密封性が高く、エネルギー効率は良いのですが、その結果、室内と室外の空気が自然に交換されることが少なくなり、人工的に換気をしなければ室内空気が汚染されることになります。 1984年、WHOは「世界中で新築または改築された建物のうち、(多く見積もると)30%近くがシックビルディング症候群を起こしている可能性がある」(*注2)との旨の報告を出しました。以来、シックハウス症候群(あるいはシックビルディング症候群)という言葉は世界中で広く使われ、日本のマスコミでもよく取り上げられてきました。シックハウス症候群は「ある家に居住する人が、その住居内環境によって被る健康障害」ということになりますが、それは家全体のこともあるし、ある特定の部屋の中に限られることもあります。 シックハウス症候群の症状と原因 シックハウス症候群に関係のある症状としては、頭痛、目・鼻・咽の不快感、乾いた咳、皮膚の掻痒(そうよう)感、めまい、吐き気、集中力低下、疲労、においに対する過敏性などがあります。 シックハウス症候群の原因は不明ですが、ここでは、一応室内の空気汚染物質によるものと仮定をしておきます。室内空気汚染物質のほとんどは室内の発生源から出ています。室内で使用されているいろいろな建築材料、カーペット、接着剤、ペンキ、木材、殺虫剤、洗浄剤、家具、カーペット、たばこの煙、ガス器具、石油やオイル器具、暖炉などです。個人が使用しているいろいろな化粧品や健康製品も汚染源になることがあります。以下に代表的な汚染物質をまとめてみました。 ◆燃焼で発生するガス… 一酸化炭素、二酸化硫黄、フォルムアルデヒドなどですが、ガス器具、石油やオイルを使用した器具、暖炉などから生じます。 ◆アレルゲン…アレルギーを起こすものですが、洗剤、室内で飼っているペット、虫、ほこりの中にすむダニ、花粉など。水蒸気が多すぎるとカビなどが生え、それもアレルギーの原因になります。 ◆微生物…細菌、かび、ウィルス、水道水に混ざっている微生物もあります。それが加湿器や貯水装置を経て室内空気中に入ります。虫、鳥の糞(ふん)、病気の人も微生物の供給源になります。 ◆揮発性有機化合物(VOCs)…建築材料、カーペット、断熱材など。数年間に亙って空気中に出てくる可能性があります。ガス器具、たばこの煙、様々なクリーニング製剤も汚染源になります。 ◆アスベスト…1920年から1978年の間に建築された建物はアスベストが使用されている確率が高く、高濃度のアスベストが含まれている空気を長期呼吸すると、癌(がん)、肺癌のリスクになります。アスベストは天井、床、断熱材などに使用されています。 ◆たばこの煙…たばこの煙には2,000種類以上の化学物質が含まれています。長期の間接喫煙で、肺癌、慢性呼吸器疾患、心疾患のリスクが高くなります。ヘビースモーカーの室内は、様々な有害化学物質の濃度が室内基準値を超えている場合があります。 ◆ラドン…地中から出てくる自然の放射性物質であるラドンガスは、においも無く目にも見えないガスですが、アメリカでは多くの家の空気中に含まれています。アメリカ人全体が受ける放射線量の半分以上にもなり、医療で受ける放射線量の4~5倍にも及びます。肺癌になるリスクも高く、喫煙者の場合はそのリスクがさらに高くなります。 ◆鉛…鉛は室内の空気中に含まれているわけではありませんが、室内での重要な汚染物質です。1978年以前に建築された建物のペンキには鉛が含まれています。このペンキに含まれている鉛で、毎年多くの子供が鉛中毒になっているのです。香りのあるローソク・キャンドルの芯にも鉛が含まれていることがあります。 先ずやるべきこと 先ず、住んでいる家の歴史と環境を分析します。いつ建築されたか、最近改築されたか、今住んでいる人(喫煙者や病人の有無)、暖房器具・換気装置・温水器・浄水器・エアコンなどの使用年数と状態。次に、可能性のある汚染源と汚染経路を調べます。それには、家の中の部屋を一つ一つシラミ潰しに見ていく必要があります。 汚染物質が分かればいいのですが、普通は簡単ではありません。汚染源も汚染経路も一つとは限らず、複数存在していることがあります。汚染物質の同定は、起こっている症状から類推することができるかもしれません。例えば、一酸化炭素中毒症状があれば、一酸化炭素を生じる暖炉や暖房器具に焦点を当てることができます。汚染源を同定できれば、次にそれに対する対策が必要になってきます。 具体的な対策と予防 1)汚染源の除去または改善
*注1)シックハウス症候群は、英語のSick House Syndromeを訳したもので、日本ではこの言葉がよく使用され、この記事でも使用していますが、アメリカや他の国ではシックビルディング症候群(Sick Building Syndrome)という言葉がよく使用されています。 *注2)新築、改築の建物は、使用されている建材から長期にわたって汚染物質が室内空気中に出てきます。 サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2005年4月1日号に掲載
|
